技術紹介

モンテカルロ輻射モジュールを用いた熱解析( Thermal Analysis using Monte Carlo Radiation Module )

  • Apr 23, 2010 11:36:00 AM
  • 株式会社アテナシス 池田 圭
モンテカルロ輻射モジュールを用いた熱解析( Thermal Analysis using Monte Carlo Radiation Module )

CFD-ACE+ には,熱輻射を扱うモデルとして,Surface to Surface,Discreate Ordinate,P-1,及び,Monte Carlo (MC) が用意されています.それぞれ特徴がありますが,MC Radiation は,複素屈折率を考慮することが可能な,やや特殊なモデルです.

複素屈折率を考慮することで,半透明の固体と透明な流体とのインターフェースで屈折する現象,臨界角を満足した際の全反射,及び半透明部材内の吸収等を考慮することが可能になります.石英のような半透明部材や,光学的に薄い(光が固体表面で全て吸収されずに一部が透過する)部材・薄膜の影響を,より現実的に考慮することが出来るようになります.なお,透過する光は,熱輻射を問題にしている関係上,0.1~数10μmの赤外域を対象としています.

以下には,高温の発熱体から放射したエネルギーが,石英ロッドの中を全反射を含めて通過した輻射エネルギーとして離れたチャンバー内の基板を暖める,という計算例をご紹介します.始めに,計算モデルの概略を図1に示します.

Fig. 1 計算モデル(二次元軸対称)-1

Fig. 1 計算モデル(二次元軸対称)

楕円形のミラー内部と上部のチャンバー内部(基板を除く領域),及び石英ロッド周辺の冷却部を除いた領域は流体部(空気)として,また,石英ロッド,基板,及び冷却部は固体部して,それぞれ計算領域に考慮しています.

ランプと対向する位置に,石英ロッドが配置されており,ランプと石英ロッド端部の中央が,周囲の楕円形ミラーの焦点に位置するように配置されています.楕円形ミラーは,輻射率が低く,ほとんど鏡面反射すると仮定しています.

主な境界条件と計算結果を図2に示します.ランプの高温部は,本計算例では2500K を仮定しています.石英ロッドは,このモデルでは両端に近い部分で意図的に冷却しています.これにより,ロッド下部及び上部との間を熱伝導により伝わる効果を無視できるようにしています.チャンバー周辺は,本モデルでは温度固定とせず,熱伝達係数(HC)と輻射率を考慮し,雰囲気温度300Kという境界条件を設定しています.

Fig. 2 主な境界条件と計算結果の温度分布

Fig. 2 主な境界条件と計算結果の温度分布

ミラー内部で温度の高い領域が中央に見られるのは,重力を鉛直下向きに考慮している関係で浮力の影響による上昇気流が発生しているためですが,石英ロッドの下端が加熱されているのは,輻射の影響によるものです.

チャンバーの領域を拡大し,温度分布を示したものを図3に示します.石英上端部よりも,浮いている基板中央部の方が温度が高い結果となっています.

Fig. 3 チャンバー内の温度分布

Fig. 3 チャンバー内の温度分布

基板に対し,上面の中央から半径方向を横軸とした温度プロファイルを図4に示します.

Fig. 4 基板表面の径方向に対する温度分布

Fig. 4 基板表面の径方向に対する温度分布

石英ロッド自体は冷やされていますので,ロッド内を通過した輻射熱が基板に到達し,基板を加熱していることを確認できます.ロッド内部の吸収も計算には考慮されていますが,今回のように半透明部材とその屈折率・臨界角が重要となる問題では,MC Radiation Module が必要となります.


上記のモデルに関し,石英ロッドの先端部(加熱する基板に面した側)の形状が平面ではなく,凹 又は 凸 の場合に,屈折を考慮した計算結果が得られるかどうかを検証してみます.

形状は,ここでは同じ半径を持つ球面を考え,凹( concavo )又は 凸( convex ) として考慮しました.ロッド先端近傍を拡大して Fig. 5 に示します.

Fig. 5 石英ロッドの形状比較:凹(左)及び凸(右)

Fig. 5 石英ロッドの形状比較:凹(左)及び凸(右)

その他の計算条件は,上記のモデルと同様ですが,凹凸比較のモデルでは,より細かいグリッドを使用しており,約2倍のセル数を考慮しています.以下の Fig. 6 に定常計算で比較した結果を示します.

Fig. 6 温度分布の比較:凹(左)及び凸(右) 

Fig. 6 温度分布の比較:凹(左)及び凸(右)

違いはそれほど顕著ではありませんが,凸形状の方が,温度の高い領域が中央に偏る傾向が見られます.

室温から5秒間,加熱した際の非定常計算(アニメーション)を,Fig. 7 に示します.

 

Fig. 7 非定常計算における温度分布の比較:凹(左)及び凸(右)

Fig. 7 非定常計算における温度分布の比較:凹(左)及び凸(右)

基板に入射する輻射熱( Radiative Heat Flux )を,加熱を始めて(石英はほとんど加熱されていない) 0.25s の時点で比較した結果を,Fig. 8 に示します.

Fig. 8 基板に入射する輻射熱

Fig. 8 基板に入射する輻射熱

横軸には基板の半径をとっています.この図から,石英ロッドから放射され,基板に入射する熱輻射の分布に,大きな違いがあることを確認できます.凸( convex )の場合,明らかに中央に偏る傾向を確認することができますが,ロッド先端から基板までの距離が比較的短いために,直感的には分かり難い分布になっていると考えられます.一方の凹( concavo )の場合は,凸の場合と比較してブロードになっている様子が分かります.

非加熱物の温度分布は,その熱伝導率が比較的良い場合,大きな違いを生じることはないと考えられますが,MC Radiation Model を用いることで,石英ロッドの形状とその形状に依存して屈折する熱輻射を考慮することが可能です.


以下,この module を利用した計算例をご紹介します.CVD の分野で多く利用されています.

■ Substrate thermal profiles in spray-CVD reactor
JOURNAL OF OPTOELECTRONICS AND ADVANCED MATERIALS Vol. 8, No. 1, February 2006, p. 144 - 147
M. GIRTAN, P.O. LOGERAIS, A. BOUTEVILLE
LPMI, ENSAM, Angers, France bFaculty of Physics, Al. I. Cuza University of Iasi, Romania

■ Equipment and Process Simulation of Compound Semiconductor MOCVD in the Production Scale Multiwafer Planetary Reactor
Simulation of semiconductor processes and devices 2001: SISPAD 01
M. Dauelsberg, M. Deufel, M. Reinhold, G. Strauch
AIXTRON AG

■ NUMERICAL SIMULATION APPLIED TO CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION PROCESS. RAPID THERMAL CVD AND SPRAY CVD
Journal of Optoelectronics and Advanced Materials Vol. 7, No. 2, April 2005, p. 599 - 606
A. Bouteville


☆ 本計算モデルは,日本イーエスアイ株式会社 ユーザー会 PUCA 2009 で発表した「高周波・赤外集光一体型加熱装置の熱解析」に関連し,赤外集光に関係する部分のみを簡易的に説明したものです.

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