技術紹介

ICPリアクタによる CF4 分解(CFD-ACE+ を用いたプラズマシミュレーション)

  • Jan 30, 2009 2:00:00 PM
  • 株式会社アテナシス 池田 圭
ICPリアクタによる CF4 分解(CFD-ACE+ を用いたプラズマシミュレーション)

半導体製造工程では,ドライエッチングや CVD プロセスのクリーニングのガスに,PFC(Perfluorocarbon)がしばしば用いられます.PFCは,地球温暖化係数(GWP)が非常に大きいガスとして知られており,大気中の寿命も長いことから,排出による蓄積量の増加が懸念されています.そのため,PFC を含む温室効果ガス削減に対する取り組み(外部サイト:半導体・液晶製造業の PFC削減取組みについて)も活発になっています.

大阪府立大学の環境保全学研究室(外部サイト)では,誘導結合型プラズマリアクタを用い,PFC の中でも最も安定し分解が困難な(不燃性として知られている)ガスの一つである CF4 の分解を低圧下で行い,シミュレーションを用いてリアクタ内のプラズマ特性や分解物を含むガスの密度分布等を計算しました(参考文献:[21]).以下では,その内容を簡単にご紹介致します.

■ 装置の概要とそのシミュレーションモデルは,以下の図1のようになっています.リアクタは,長さ330mm,外形60mm,内径49mmのアルミナ管を使用しています.

Fig. 1 計算モデルの概略

Fig. 1 計算モデルの概略

シミュレーションでは,二次元軸対称モデルとして取り扱っています.なお,斜線の部分は計算領域内の流体部のみを示したもので,計算モデル自体は,周囲のコイル(径5mmの銅管)とその周辺の領域を同時に解いています.

使用したモジュールは,Flow,Heat Transfer,Chemistry,Magnetic,及び,Plasma です.圧力が低いことから,流れは層流を仮定し,重力を無視しています.

支配法的式には,質量・運動量・エネルギーの各保存則を考慮し,ガスの密度は理想気体から計算しています.

Fig. 2 プラズマの流れに関して考慮した支配方程式

Fig. 2 プラズマの流れに関して考慮した支配方程式

また,以下の輸送方程式を考慮しています.

Fig. 3 電磁場に関する支配方程式

Fig. 3 電磁場に関する支配方程式

電磁場については,ベクトルポテンシャルを解き,以下のような方程式を考慮しています.

Fig. 4 電磁場に関する支配方程式

Fig. 4 電磁場に関する支配方程式

プラズマは準中性を仮定し,電子については以下のエネルギー方程式を考慮しています.

Fig. 5 準中性の仮定,及び電子のエネルギー方程式

Fig. 5 準中性の仮定,及び電子のエネルギー方程式

計算モデルの境界条件を,以下に示します.

Fig. 6 境界条件

Fig. 6 境界条件

典型的なプロセス・計算条件を,以下に示します.

Table 1 プロセス・計算条件

AC current frequency f (MHz)
2
Ambient temperature T0 (K)
293
Pressure p0 (Pa)
80
Power P (W)
2000
Mass flow rate QM (kg/s)
2.107e-5
Mass fraction of initial mixture Y
CF4/O2 = 0.57895/0.42105

 

考慮した気相中,及びリアクタ内壁の反応を,以下に示します.

Fig. 7 考慮した反応モデル(上:気相)

Fig. 7 考慮した反応モデル(下:表面)

Fig. 7 考慮した反応モデル(上:気相,下:表面)

以下に,代表的な計算結果を,以下に示します.

■ リアクタ内のガス温度分布

Fig. 8 ガス温度分布

Fig. 8 ガス温度分布

ガス温度は,リアクタ中心よりもやや下流側で最大となり,本条件では 300℃ 程度まで上昇しています.

■ リアクタ内の電子温度分布

Fig. 9 電子温度分布

Fig. 9 電子温度分布

電子温度は,リアクタの中心線からリアクタ内壁に向うにつれて高くなり,また,高い領域もコイルが巻かれている範囲内に広がっています.本条件では,電子温度の最大値は 1.33 eV となりました.

■ リアクタ内の電子密度分布

Fig. 10 電子密度分布

Fig. 10 電子密度分布

電子密度の高い領域は,電子温度の高い領域と対応がとれていますが,リング状の比較的狭い範囲に限定されています.

■ リアクタ内の流速分布(x軸方向)

Fig. 11 流速分布(x軸方向)

Fig. 11 流速分布(x軸方向)

ガス速度は,リアクタの中心よりもやや下流側で最大となっています.これは,ガス温度と対応しています.

■ CF4 の数密度分布

Fig. 12 CF4 数密度分布

Fig. 12 CF4 数密度分布

CF4 は,リアクタ内の電子密度が高い領域で減少している様子が分かります.

■ O2 の数密度分布

Fig. 13 O2 数密度分布

Fig. 13 O2 数密度分布

O2 についても,CF4 と同様,電子密度分布が高い領域で減少している様子が分かります.

■ CO2 の数密度分布

Fig. 14 CO2 数密度分布

Fig. 14 CO2 数密度分布

C02 は,CF4 と O2 の酸素の分解により,リアクタの下流側で増える様子が分かります.

■ COF2 の数密度分布

Fig. 15 COF2 数密度分布

Fig. 15 COF2 数密度分布

C02 もまた,CF4 と O2 の酸素の分解により,リアクタの下流側で増える様子が分かります.なお,生成量は CO2 に比べて小さいと思われます.

■ CO の数密度分布

Fig. 16 CO 数密度分布

Fig. 16 CO 数密度分布

C02 もまた,CF4 と O2 の酸素の分解により,リアクタの下流側で増える様子が分かります.なお,生成量は極めて小さいと思われます.

■ C の数密度分布

Fig. 17 C 数密度分布

Fig. 17 C 数密度分布

C(カーボン)も生成はしていますが,その数密度は,CO2 や COF2 と比較すると非常に小さいことが分かります.

■ F の数密度分布

Fig. 18 F 数密度分布

Fig. 18 F 数密度分布

F(フッ素原子)も CF4 の分解に伴い,リアクタの下流側で増加している様子が分かります.

以上のように,CF4 や O2 はリアクタ内の電子密度の高い領域で減少し,その分解は電子によって行われていることが分かります.また,副生成物としての CO2,COF2,F は,リアクタ中心の下流部において,同様の放物線状(管の内壁近傍で高い傾向を示す)に分布していることが分かりました.

ICPリアクタを利用することで効率良く CF4 を分解できることが,シミュレーションからも確かめられたと言えます.

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